目が覚めたら、出社時間の目前だった。
寝起きのぼんやりとする頭をぼりぼりとかいて、吾代は大欠伸をする。今のでちょっぴり酸素を多めに取り入れた筈なのに、一向に頭がすっきりしないのは何故なんだろう。
吾代は枕元に放置している煙草を手にとった。
夜の間にすっかりニコチンが切れてしまっていたから、煙草の煙を吸いたくてたまらない。
窓をしめきられ、一晩分の男のにおいが充満した部屋の中、それらを押し退けるように煙草の煙がたちこめる。
ニコチンを摂取して、ようやっと頭がまわりだした吾代の横で、今だ眠ったままだった早乙女がうめきながら身体をうごかした。
「…俺にも一本…」
かすれた声でそう要求し、布団に突っ伏したまま掌を差し出す早乙女に、吾代は火の着いた煙草をわたしてやった。
それでようやっと、早乙女も目をさます。
ごろりと仰向けに転がって煙草をくわえると、半分以上瞼のおりた目で吾代を見上げてくる。疲れがにじみ、うっすら髭のはえたその顔は、早乙女を実年齢より老いてみせていた。
(つうか、ぶっちゃけオッサン…)
そういう吾代だって、きっと相当酷い顔をしているのだけど。

いい加減おきないとヤバい気がするなぁ、と吾代が思い始めた頃、ようやく早乙女が身体をおこす。
「吾代、今何時だ?」
ぶっちゃけ声はまだ半分ぐらいは寝ていたが、時間をきにするあたり大分覚醒してきたようだ。
吾代は早乙女に大雑把な時間をおしえてやった。
「…遅刻じゃねーか」
なんではやくおこさねーンだよと気だるい声で文句を言って、むくりと身体をおこす。
寝癖でボサボサの頭を、吾代が起きた時と同じようにばりばりとかいて、 不機嫌そうに唇をゆがめたまま、早乙女は吸っていた煙草を枕元の灰皿におしつけた。
「ああ糞、だりぃな」
伸ばした首筋から、ごきごきと音がするのを、横にいた吾代ははっきりと聞いた。吾代も真似して首筋を伸ばしてみたが、 ぐいっと筋肉が引き伸ばされる感じがするだけで、早乙女のように鈍い音が響くことはなかった。
まだまだ俺の方が若いってことだよなとささやかな優越にひたる吾代を後目に、早乙女は布団から抜け出し寝室兼リビングをよこぎる。
夜のままの姿だから、当然のように全裸だ。
不愉快なのと恥ずかしいのが半々な感情に顔を歪めた吾代は、パンツぐらいはけよと呟いた。
「照れるなよ」
それをしっかり聞きとがめた早乙女の言葉に、あんたはもっと恥じらいというものをもったほうがいいと思う、と言おうとしたが、言っても無駄そうだったので、やめた。




2007.08.09